自分でやれなくもない仕事だった。
AIを使えば、それなりの形にはなる。
人に頼めば、経費がかさむ。
それでも俺は、デザイナーに声をかけた。
全部自分でやろうとしていた俺が、間に立つ側に回った時の話を書こうと思う。
自分が成果を出さなきゃ、と思っていた
若い頃の俺は、営業成績を上げることばかり考えていた。
事業を始めた頃も、同じだった。
「なんとか利益を出さないと」
自分が前に出る。
自分が売る。
自分が成果を出す。
でも、そう思えば思うほど、相手は離れていった。
商品も、売れなかった。
──俺が見ていたのは、相手ではなく、自分の数字だった。
自分でやれなくもない、という誘惑
事業でマーケティングの仕事を受けた時のことだ。
相手は、開業したばかりの、地域の小さな施設。
進めるうちに、Webのデザインが必要になった。
自分でやれなくもない。
AIを使えば、それなりの形にはなる。
人に頼めば、経費はかさむ。
ただ、一番引っかかっていたのは、お金ではなかった。
間に、もう一人、他者が入ること。
お客さんの話を直接聞いたのは、俺だ。
ニュアンスも、使う目的も、俺の中でははっきりしている。
でも、それを俺がデザイナーに伝えた瞬間に、伝言ゲームが始まる。
少しずつ、ニュアンスが変わる。
どこかで、誤解が生まれる。
それなら、自分でやった方が早いんじゃないか。
──それでも、より良いものを納めたかった。
俺は、デザイナーを探して声をかけた。
言葉ではなく、目的を渡した
お客さんから見せられたのは、施設のロゴだった。
「このロゴに似た雰囲気で」
「明るくて、きれいな感じに」
要望は、それだけだった。
この言葉をそのまま渡せば、たぶん、明るくてきれいなものは上がってくる。
でも、それで足りるとは思えなかった。
その施設は、開業したばかりだった。
地域の人には、まだ誰にも知られていない。
初めて目にした人に、安心してもらえるかどうか。
お客さんが本当に欲しかったのは、色や雰囲気の先にある、それだった。
だから俺は、デザイナーにこう伝えた。
ロゴに似た色や雰囲気、というだけじゃない。
開業したばかりで、まだ知られていない。
地域の人に、温かみと信頼感を持ってもらえるデザインにしてほしい。
言葉ではなく、目的を渡す。
伝言ゲームを怖がっていた俺にできたのは、それだけだった。
一度で決まったわけじゃない。
上がってきたものを見て、何度か修正をお願いした。
俺とデザイナーの好みの違いも、あったと思う。
そのたびに、最後にこれを見る人のことを考え直した。
何往復かして、ようやく納得できるものになった。
それを他のコンテンツと組み合わせて、納品した。
「期待以上のものを作ってもらえた」
お客さんは、そう言って喜んでくれた。
──俺ひとりで作っていたら、この言葉は聞けなかったと思う。
「Bポジ」という言葉
けーりんさんの『戦略的いい人 残念ないい人の考え方』に、「Bポジ」という言葉が出てくる。
Bは、ブリッジのB。
橋渡し役のことだ。
自分が主役として前に出るのではなく、人と人の間に立って、つなぐ役回り。
俺は、そう受け取った。
これを読んで、あの案件でやっていたことに名前がついた気がした。
お客さんと、デザイナー。
俺がやったのは、その間に立って、言葉を目的に直して渡すことだった。
若い頃の俺なら、これを「自分の成果」とは呼ばなかったと思う。
作ったのは、デザイナーだからだ。
でも、間に立つ人間がいなければ、「明るくきれいに」は、明るくきれいなだけのデザインで終わっていたかもしれない。
もちろん、いつもうまくいくとは限らない。
手間は増えるし、経費もかかる。
伝言ゲームの怖さが、消えたわけでもない。
それでも俺は、あの時、頼んでよかったと思っている。
明日、ひとつだけ
誰かに仕事を頼む時。
上から降りてきた指示を、誰かに伝える時。
言われた言葉をそのまま渡す前に、
「何のためか」を一度考える。
それだけでいい。
伝言は、渡すたびに少しずつ痩せていく。
目的は、渡しても痩せない。
──間に立つ俺たちの仕事は、たぶんそこにある。
同じ夜を戦う、戦友へ
もし今、全部を自分で抱えているあなたへ。
1冊、置いていきたい。
📚 『戦略的いい人 残念ないい人の考え方』けーりん
成功するのは、頑張っている人ではなく、誰かを幸せにする人。
この本は、そう言い切る。
誰かを幸せにすることで、協力してくれる人が増え、
巡り巡って自分も幸せになる、と。
頑張ることを手放せ、という話ではないと俺は読んだ。
頑張る向きを、自分から相手に変える話だ。
このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、書籍から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。
同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。
──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。


コメント