若い頃の俺は、会うなり商品の話をしていた。
時間をもらえた。
だから、伝えるべきことを全部伝える。
それが、誠実な営業だと思っていた。
全部ストライクで攻めていた頃
取引先を訪ねると、挨拶もそこそこに資料を広げた。
商品の特徴。
他との違い。
導入してもらえた時の良さ。
一球目から、ど真ん中に投げ込んでいた。
相手は話を聞いてくれる。
うなずいてもくれる。
それでも、なかなか決まらなかった。
──今思えば、相手のことを何も知らないまま投げていた。
ボール球は、3つまで使える
『タッチ』に、こんな意味の言葉がある。
バッターを打ち取るまでに、ボール球は3つまで使える。
全部をストライクで取りにいかなくていい。
ボール球で目線を動かし、反応を見て、最後の一球を活かす。
ボール球は、外れた球じゃない。
打ち取るための、伏線だ。
──この言葉が、俺の商談の組み立てを変えた。
本題の前に、一球投げる
今の俺は、本題に入る前に、商品とは関係のない話をする。
家族のこと。
子どもさんのこと。
最近の経営の様子。
誕生日が近ければ、「おめでとうございます」と一言。
どれも、商談には直接関係ない。
でも、その一球で、相手のことが少し見える。
今、何に追われているのか。
どんなことを大事にしているのか。
今日は、話を聞く余裕がある日なのか。
それが分かってから投げる本題は、同じ商品の話でも、届き方が違った。
──ボール球が、最後の一球を活かしていた。
ただし、ボール球は3つまで
もう一つ、この言葉から受け取ったことがある。
ボール球は、3つまでだ。
4つ目を投げれば、フォアボールになる。
雑談も同じだ。
長すぎれば、相手の時間を奪うだけになる。
本題に入らないまま帰れば、それはただの世間話だ。
ボール球は、打ち取るためにある。
投げること自体が目的になったら、意味がない。
──だから俺は、本題の前に投げるのは、一球か二球と決めている。
明日、ひとつだけ
次の商談の前に、商品と関係のない問いを、ひとつだけ用意する。
相手の近況でも、会社の様子でも、季節の話でもいい。
そして、その答えを聞いてから、本題に入る。
一球目から、ど真ん中に投げなくていい。
最後の一球で打ち取れれば、それでいい。
と、俺は思っている。
──今夜もまた、明日会う人への最初の一言を考えてから、読書灯を消す。
同じ夜を戦う、戦友へ
📖 一球の意味を、考えたい人へ
『タッチ』あだち充
野球と、双子の兄弟と、幼なじみの物語だ。
大きな言葉より、さりげない一言や間で語られる場面に、何度も足を止めさせられる。
このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。
同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。
──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。

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