その席は、座るに値するのか──社内の飲み会を断るようになった俺が、失ったものと残ったもの

深夜の机に置かれた読書灯と漫画の単行本と小さな木の椅子 父としての背中

漫画を読んでいて、手が止まった。

青木U平の『ミワさんなりすます』。
主人公が、子どもの頃からイス取りゲームが苦手だったと打ち明ける場面だ。
学校でも職場でも、自分の席はどこにもなかった、と。

それを聞いた相手は、慰めなかった。
代わりに、問いを返した。

「座るに値する席」なのか、と。
自分を曲げてまで座らなければならない席なのか。
そんな意味の問いだった。
(青木U平『ミワさんなりすます』より)

俺は、彼女とは逆の立場だった。
席には座れた。座り続けていた。

──ただ、その席に値するかどうかを、考えたことがなかった。

誘いを断らなかった、若手の頃

職場に、飲み会が好きなメンバーがいた。
事あるごとに、声がかかる。
若手の頃の俺は、断らなかった。

話の中身は、仕事の愚痴と、社内の噂話が多かった。
建設的な話は、ほとんどなかった。

ほとんど、と書いたのには理由がある。
ゼロではなかったからだ。
先輩の一言に救われた夜のことは、前回の記事に書いた。

それに、行けば得るものもあった。
一緒に飲んだ相手とは、距離が縮まる。
翌日からの仕事は、確かにやりやすくなった。

だから、座り続けた。
意味があるのかと、半分疑いながら。

──その席の価値が大きく変わったのは、家族ができてからだ。

同じ席なのに、価値が変わった

結婚して、家族ができた。
すると、同じ数時間の意味が変わった。

独身の頃、飲み会で失うのは、自分の時間だけだった。

今は違う。
その数時間は、家族と過ごすはずだった時間だ。
自分の事業に使えたはずの時間でもある。

経済学に、機会費用という考え方がある。
何かを選んだ時、選ばなかったほうで得られたはずのもの。
それも費用に数える、という考え方だ。

飲み会の会費は、数千円だ。
でも俺が払っていたのは、会費だけじゃなかった。

断っておくと、あの席そのものが悪いわけじゃない。
あの席で関係を作り、仕事を回している人がいる。
その人にとっては、座るに値する席だ。

変わったのは席じゃない。俺のほうだ。

──気づけば俺は、その席を空けることが増えていた。

席を立って、失ったもの

ある日、きっぱり決めたわけじゃない。

席を空ける回数が、少しずつ増えていった。
いつからかは、もう分からない。
気づいた時には、その席に座らなくなっていた。

今は、必要な付き合いや会話を、できるだけ就業時間の中に収めている。

おかげで、家族との時間と、事業の時間は確保できている。

ただ、タダじゃなかった。

翌日、職場で「あの時さ」と話が始まる。
俺は、その会話に入れない。

先輩からの仕事の助言も、座っていればもう少しもらえたかもしれない。
前回書いたような一言に出会う機会を、自分で減らしたことになる。

上司との距離も、そうだ。
あの席にいれば、昇進の話が回ってきたかもしれない。

これは、確かめようがない。
確かめようがないものを、俺は手放した。

それでも、俺は今の席を選んでいる。
失うものを数えた上で、だ。

──座るに値する席は、人によって違う。同じ人でも、時期によって違う。

明日、俺がやる3つのこと

① 今座っている席を、ひとつ書き出す

惰性で座っている席は、ないか。
飲み会に限らない。会議でも、習慣でもいい。

② その席の価値を、今の自分で測り直す

若手の頃の俺には、座る価値のある席だった。
今の俺には、もっと価値のある席が他にできた。
価値は、席ではなく自分の側で決まる。

③ 立つなら、失うものを先に数える

席を立てば、必ず何かを失う。
数えた上で立つのと、気づかずに立つのとでは、後悔の仕方が違う。

まとめ:座るに値する席

席に座れなかった彼女と、座れたのに立った俺。
立場は逆でも、問いは同じだった。

その席は、今の自分が座るに値するのか。

答えは、人の数だけある。
俺の答えは、今のところ、家の机の前だ。


同じ夜を戦う、戦友へ

今夜も2冊、置いていきたい。

📖 自分の席がどこにもないと感じている人へ
『ミワさんなりすます』青木U平

設定は笑える漫画だ。
なのに時々、こういう問いが混ざっている。

📚 全部はできない、という前提から考えたい人へ
『限りある時間の使い方』オリバー・バークマン

時間は有限で、何かを選べば何かを手放す。
読んでから、席を選ぶ時の迷いが少し減った。


このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。

同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。

@shinyadokushoto

──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。

コメント

タイトルとURLをコピーしました