練習どおりに、うまく説明できた商談だった。
商品の特徴も、価格の手頃さも、伝えきった。
それでも、話はまとまらなかった。
理由を知ったのは、ずっと後のことだ。
社内の練習では、うまくできていた
取引先へのプレゼンは、いつも社内で準備していた。
どう説明すれば、伝わるか。
会社が考える訴求点を、どうすれば理解してもらえるか。
どこで身振りを入れて、強調するか。
練習を重ねるほど、うまくなっている気がした。
ただ、その練習の相手は、いつも自分と社内の人間だった。
見ていたのは、自分たちのチームの動きだけだった。
──相手が聞きたかったのは、そこじゃなかった。
決まらなかった理由
商品の特徴、メリット、価格の手頃さ。
伝えるべきことは、伝えたつもりだった。
それでも、納得してもらえない商談があった。
理由を知ったのは、取引を続ける中で、相手から直接聞いたときだ。
商品のことは分かる。
でも、自分たちのお客さんが使うところが想像できなかった。
お客さんはたくさんいる。
その中で、誰に勧めればいいのかも見えなかった。
だから、決められなかった。
俺は、目の前の相手だけを見ていた。
相手の後ろにいる人たちが、見えていなかった。
──そのとき、ある漫画の言葉を思い出した。
11人ではなく、22人
『フットボールネーション』に、こんな意味の言葉がある。
サッカーは、11人でやるものではない。
相手チームも含めた、22人でやるものだ。
自分のチームの動きだけを見ていても、試合はつくれない。
相手がどう動くかで、自分の一手の意味が変わる。
営業も、同じだった。
俺は、自分のチームだけで試合をしていた。
自社の訴求点と、自分の説明のうまさ。
見ていたのは、そこだけだった。
でも本当は、取引先も、その先にいるお客さんも、同じ試合の中にいた。
そこまで含めて、一つの商談だった。
以前、相手が本当に困っていることを見つける話を書いた。
今回の気づきは、その一歩先にあった。
相手の困りごとの、さらに向こう側だ。
──そう気づいてから、提案の中身を変えた。
相手の先にいる人の話をする
商品の良さを並べるのを、やめた。
代わりに話すようにしたのは、取引先のお客さんのことだ。
そのお客さんが、どう使えば、どんな良さがあるのか。
どんなお客さんなら、この商品の強みを一番活かして、生活に役立ててもらえるのか。
そこから話すようにすると、商談がまとまりやすくなった。
それ以上に変わったのは、相手の反応だった。
「うちのお客さんなら、こういう人の方が合うと思う」
「こういう使い方の方が、いいんじゃないか」
相手からも、意見が返ってくるようになった。
説明する側と、聞く側。
それだけだった商談が、一緒に考える場になった。
相手チームは、敵じゃなかった。
同じ試合をつくる、もう半分だった。
──22人で考えると、試合は深くなる。
明日、ひとつだけ
次の商談やプレゼンの準備で、一行だけ書いてから臨む。
「相手のお客さんは、これをどう使うか」
自社の訴求点を考える前に、
相手の先にいる一人を思い浮かべる。
仕事だけじゃない。
生活も、自分のチームだけでは回っていない。
家族の外にも、一緒に日々をつくっている人がいる。
試合は、自分たちだけでつくるものじゃない。
と、俺は思っている。
──今夜もまた、明日会う人の、その先にいる誰かを思い浮かべる。
同じ夜を戦う、戦友へ
もし今夜、自分のチームのことだけで頭がいっぱいだったあなたへ。
2冊、置いていきたい。
📖 自分のチームの外まで、見渡したい人へ
『フットボールネーション』大武ユキ
サッカーという競技を、体の使い方や考え方から捉え直していく物語だ。
当たり前だと思っていた見方が、ひっくり返される場面がいくつもある。
📚 お客さんの「その先」を考えたい人へ
『ジョブ理論』クレイトン・M・クリステンセン ほか
人は商品そのものではなく、片付けたい「用事」のために商品を選んでいる、という考え方を説いた本だ。
相手が何のためにそれを使うのか。提案の出発点を見直したい人の手がかりになるかもしれない。
このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。
同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。
──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。


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