「あいつの方が上かもな」と言われた夜──『アイシールド21』蛭魔妖一に学ぶ、あるもので戦う技術

熱の処方箋

「正直、あいつの方が上かもな」

飲みの席で、先輩が悪気なく言った一言だった。

「あいつ」とは、俺の数年後輩。
若くて、センスがあって、物覚えも早い。
得意先からの評判もいい。

営業として、明らかに優秀だった。

それは俺も分かっていた。
分かっていたからこそ、
数年先を歩いているはずの自分と並べられた瞬間、
返す言葉が見つからなかった。

笑って流した。
でもその夜、家に帰ってからずっと考えていた。

俺には、あいつの若さがない。
あいつのセンスがない。
あいつの伸びしろも、たぶんもうない。

ないものを数え始めたら、止まらなくなった。

──そんな夜から、どう立て直したのか。

『アイシールド21』の、あの男の戦い方を借りながら、
「ないものねだり」をやめた話を書こうと思う。

ないものを数えた日々

その後輩が配属されてきた時から、
正直、光るものがあった。

教えたことは、一度で覚える。
応用も利く。
初めての得意先でも、物怖じせずに懐に入っていく。

俺が数年かけて掴んだ感覚を、
あいつは数ヶ月で身につけていった。

得意先の反応も、素直だった。
「今度の若い子、いいね」

営業成績も、みるみる伸びた。

担当する得意先も市場も違うから、
数字で単純比較されるわけじゃない。

でも、社内の空気は正直だ。

入社1、2年目で、仕事を覚え始めたばかりの後輩と、
5、6年目で、ようやく一人前に仕事を回せるようになり、
いよいよ会社の戦力として数えられ始めた俺。

本来なら、比べられる段階ですらないはずだった。

でも、周りがどちらに期待の目を向けるかは、
口に出されなくても分かった。

そして、あの飲みの席の一言だ。

「正直、あいつの方が上かもな」

その夜から、俺は数え始めてしまった。

あいつにあって、俺にないもの。

若さ。センス。地頭のよさ。
人を惹きつける愛嬌。
これから伸びていく時間そのもの。

数えるほどに、気持ちは沈んでいった。

一番まずかったのは、その後だ。

焦った俺は、あいつと同じ戦い方をしようとした。

勢いで押す。テンポを上げる。
思い切りよく踏み込む。

でも、うまくいかなかった。

当たり前だ。
借り物の武器は、本家より鋭くならない。

同じ武器で戦えば、
より鋭く振れる方が勝つ。

若さと勢いの勝負で、
若さと勢いの持ち主に勝てるはずがなかった。

空回りが続いて、
ないものねだりは、さらに加速した。

──あの頃の俺に必要だったのは、
新しい武器でも、若さでもなかった。

とっくに持っていたものに、気づく目だった。

『アイシールド21』の、あの男の戦い方

『アイシールド21』というアメフト漫画に、
忘れられない男がいる。

チームの司令塔、蛭魔妖一。

この男、実は「持っていない」側の人間だ。

アメフトは、体格と身体能力のスポーツだ。
デカくて、速くて、強いやつが正義の世界。

蛭魔には、そのどれもない。
体は細く、足も並、パワーもない。

天才たちがぶつかり合うフィールドで、
身体能力だけを見れば、明らかに見劣りする。

でも、この男は最強格の相手にも怯まない。

観察する。
情報を集める。
相手を研究し尽くす。
そして、頭脳と駆け引きで、
格上から勝利をもぎ取りにいく。

その蛭魔が、こんな意味のことを言う。

ないものをねだっている暇はない。
あるもので最強の戦い方を探していく。
それを一生続けるだけだ、と。

初めて読んだ学生の頃は、
「かっこいいセリフだな」くらいだった。

でも、ないものを数えて沈んでいた
あの頃の俺に、この言葉は別の刺さり方をした。

蛭魔は、自分に何がないかを、
誰よりも正確に知っている。

知った上で、嘆く時間を全部、
「あるもので勝つ方法」を探す時間に回している。

ないものを数える夜と、
あるものを磨く夜。

同じ一晩でも、向かう先がまるで違う。

俺は、どっちの夜を過ごしていた?

──数える夜を、やめることにした。
その代わり、探すことにした。

あいつにはなくて、俺にあるものを。

俺の「あるもの」は、地味だった

あるものを探す、と決めたはいいが、
最初は何も見つからなかった。

センスも、若さも、愛嬌もない。
じゃあ何がある?

机に向かって、自分の営業を振り返った。
これまでの商談、得意先とのやり取り、
うまくいった契約、いかなかった契約。

棚卸しをして、見えてきたものがある。

それは、拍子抜けするほど地味だった。

慎重さ。

俺は、感覚で動けない。
だから商談の前に、情報を集める。
相手の状況を調べ、話す内容を組み立ててから行く。

一発で契約を決める派手さはない。
だから、商談を重ねる。
一回で無理なら二回、二回で無理なら三回。
少しずつ前に進める。

石橋を叩いて渡る。
昔から、そういう性分だった。

正直、ずっとコンプレックスだった。

「思い切りが足りない」
「もっとスピード感を持て」

そう言われてきた性質だ。
武器どころか、直すべき欠点だと思っていた。

でも、棚卸しをして気づいた。

俺の成績は、派手な一発じゃなく、
この地味な積み重ねで作られていた。

慎重に調べるから、大きな読み違いがない。
急がないから、得意先とのトラブルが少ない。
商談を重ねるから、関係が深くなる。

勢いのある営業が一瞬で距離を詰める間に、
俺は時間をかけて、信頼を積んでいた。

派手さでは負ける。
でも、転ばない。敵を作らない。長く続く。

それが、俺の「あるもの」だった。

弱点だと思っていた性質は、
使う場所を選べば、武器だった。

──それに気づいてから、
後輩と比べる夜は、少しずつ減っていった。

あいつはあいつの武器で戦えばいい。
俺は、俺の武器で戦う。

同じフィールドにいても、
戦い方まで同じである必要は、どこにもなかった。

明日、「あるもの」で戦うために

じゃあ、明日から何をするか。

「自分らしく戦おう」みたいな
ふわっとした話で終わらせるつもりはない。

俺がやったこと、今もやっていることを3つ書く。

① 「ないものリスト」ではなく、「あるもの棚卸し」を書き出す

ないものは、数えなくても勝手に目に入ってくる。
あるものは、意識して探さないと見つからない。

だから、書き出す。

これまでうまくいった仕事を並べて、
「なぜうまくいったのか」を考える。

そこに共通して顔を出す性質が、
あなたの「あるもの」だ。

俺の場合は、慎重さと、情報集めと、重ねる商談だった。
派手じゃなくていい。
むしろ、地味なものほど本物だったりする。

② 「弱点」と言われてきた性質を、言い直してみる

思い切りが足りない → 読み違いが少ない
スピード感がない → トラブルを起こさない
押しが弱い → 敵を作らない

性質そのものに、強いも弱いもない。
場面が変われば、評価は反転する。

誰かに指摘されてきた「直すべきところ」を、
一度、武器の言葉で言い直してみる。

全部が武器になるわけじゃない。
でも、一つや二つは必ず見つかる。

それが見つかった日から、
コンプレックスは戦力に変わる。

③ 比べる相手を、隣の誰かから「昨日の自分」に変える

隣の誰かと比べる限り、
ないものねだりは終わらない。

上には必ず、誰かがいるからだ。

でも、昨日の自分となら、フェアに戦える。

昨日より一件多く調べたか。
昨日より一歩深く聞けたか。

あの後輩は、今も優秀だ。
それは変わらないし、変える必要もない。

俺が変えたのは、比較の相手だけだ。

まとめ:ないものは、ない

ないものを数える夜は、誰にでもある。

若さ、センス、学歴、才能。
隣の誰かが持っていて、自分にないもの。

数えたくなる気持ちは、痛いほど分かる。
俺も数えていた。

でも、数えても、増えない。

あの細身の司令塔が教えてくれたのは、
シンプルな割り切りだった。

ないものは、ない。
だったら、あるもので最強の戦い方を探す。
それを、一生続ける。

「一生」というのが、たぶん肝だ。

一度見つけて終わりじゃない。
戦う場所が変われば、武器も選び直す。

探し続けるかぎり、
持たざる者にも、戦い方はある。

──今夜、誰かと比べて沈んでいるあなたへ。

ないものを数える夜を、
あるものを探す夜に変えてみてほしい。

拍子抜けするほど地味なものが、
あなたの武器かもしれない。

俺のように。

同じ夜を戦う、戦友へ

今夜も2冊、置いていきたい。

📖 あの司令塔の戦い方を、最初から見届けたい人へ
『アイシールド21』原作・稲垣理一郎/作画・村田雄介

持たざる者たちが、頭と工夫で強者に挑むアメフト漫画。
大人になってから読むと、刺さるのは主人公より蛭魔だ。

📚 自分の「あるもの」を、道具を使って棚卸ししたい人へ
『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』(ストレングス・ファインダー)

弱点の克服ではなく、強みに投資しろという一冊。
俺も診断を受けて、自分の性質に「名前」がついた。
名前がつくと、コンプレックスは武器として扱いやすくなる。


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懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。

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──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。

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