営業を始めた頃、俺は周りの同僚より、分かるのが遅かった。
同じ資料を読んでいるのに、
先輩たちには見えているものが、俺には見えなかった。
一つ二つ奥が、分からなかった
仕事では、扱う商品に関わる専門の資料や論文を、読み込む必要がある。
周りの先輩たちは、その分野の専門の学部を出ていた。
学生のうちに、現場も経験している。
資料を読めば、書かれていない部分のニュアンスまで、自然と分かる。
俺は、違った。
理系の出身ではある。
書かれていることは、読める。
でも、その一つ二つ奥が分からない。
なぜそれが大事なのか。
現場では、どう受け取られるのか。
だから、得意先でも表面の話しかできなかった。
──周りがすぐ分かることに、俺は時間がかかった。
口に出して、聞かれて、調べ直した
できることは、多くなかった。
まず、何度も読み返した。
一度で分からないなら、分かるまで読む。
それから、得意先で口に出した。
声に出して説明すると、自分の頭にも残る。
そして、相手から反応や質問が返ってくる。
答えられない質問があれば、持ち帰って調べた。
説明がうまく伝わらなければ、何が足りなかったか振り返った。
読む。話す。聞かれる。調べ直す。
その繰り返しで、少しずつ、一つ奥が見えるようになった。
──遠回りだった。でも、その遠回りが、俺に残したものがある。
不器用は、いいことだ
『ニッターズハイ!』に、こんな意味の言葉がある。
できなかったことが、できるようになる喜びは格別だ。
不器用な人は、それを人よりたくさん味わえる。
主人公は、つまずかずに何でもすぐできるほうが、絶対にいいと思っていた。
そこに返されたのが、この言葉だった。
読んだとき、少し救われた気がした。
俺は、分かるのが遅かった。
でもその分、分からなかったことが分かる瞬間を、何度も味わってきた。
──そして、不器用だったからこそ、身についたものがある。
臆せず、人に聞けるようになった
分からないことが多かったから、俺は何でも聞くようになった。
先輩にも、得意先にも。
知らないことを、知らないと言えるようになった。
聞き方も、変わった。
ただ「分かりません」と言うのではなく、
「この部分が分からない。営業で活かすには、どこに気をつければいいか」
そこまで考えてから、聞くようになった。
器用に分かってしまう人は、聞く必要がない。
だから、聞く力は育たないのかもしれない。
俺は不器用だったから、聞くしかなかった。
その「聞くしかなかった」が、今の武器になっている。
──分かるのが遅いことは、弱さだけじゃなかった。
明日、ひとつだけ
今、分からないことをひとつ選んで、誰かに聞いてみる。
ただし、「どこが分からないか」と「それを何に活かしたいか」を、一言添えて。
不器用でいい。
分かるまでに時間がかかる人ほど、分かる喜びを、たくさん味わえる。
と、俺は思っている。
──今夜もまた、昨日まで分からなかった一行を読み返してから、読書灯を消す。
同じ夜を戦う、戦友へ
📖 不器用な自分を、少し好きになりたい人へ
『ニッターズハイ!』猫田ゆかり
怪我で陸上をあきらめた少年が、編み物を通して新しい居場所を見つけていく物語だ。
できないことに向き合う時間の豊かさが、やさしく描かれている。
このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。
同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。
──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。


コメント