ある大きな得意先に、新しいトップが着任した。
その人は、まったくの外から来た人だった。
組織の中にも、周りの関係先にも、
縁もゆかりもない。
肩書きはある。
でも、味方は一人もいない。
少なくとも俺には、そう見えた。
──そしてその時、俺は商品の話より先に、やることがあると思った。
昔の俺は、商品の良さしか話さなかった
若い頃の営業は、単純だった。
商品の良さを、どう伝えるか。
それだけを考えていた。
資料を磨き、説明の順番を考え、
聞かれそうなことに答えを用意する。
相手が、商品を使うこと以外で何に困っているか。
そこまで考える余裕はなかった。
正直に言えば、考える必要もないと思っていた。
営業の仕事は、商品を通して顧客の課題解決を図ることだからだ。
でも、相手がそもそも商品に困っていなかったら。
どれだけ良さを伝えても、話は前に進まない。
それに気づくまで、ずいぶん時間がかかった。
──だから、あの時は少し違う動き方をしてみた。
仮説を一つ立てて、動いてみた
新しいトップを見て、俺は一つ仮説を立てた。
この人が今一番困っているのは、
商品のことじゃない。
人とのつながりだ。
上に立つ人ほど、組織の中とも、周りとも、
うまくやっていかなければならない。
でも、外から来た人には、その足がかりがない。
だったら、俺がつなげばいい。
組織の中の人たちと。
周りの関係先の、影響力のある人たちと。
勉強会を開いたり、人が顔を合わせる場を作ったりした。
会社の名前で動ける範囲で、できることを重ねていった。
しばらくして、そのトップの方から声をかけられた。
人脈を作るのを、手伝ってほしい。
いろいろ教えてほしい。
仮説は、当たっていた。
──頼まれる前に動いていたことが、頼られる理由になった。
狙い通りに動くことが、一番面白かった
『HUNTER×HUNTER』に、こんな意味の言葉がある。
狙った通りに獲物が動けば、それがハンターとしての喜びだ。
道中を楽しみたい。それだけだ、と。
読んで、あの時のことを思い出した。
結果として、取引も広がった。
そのトップのところだけでなく、
周りの関係先にまで。
会社としては、それが一番の成果だったと思う。
でも、俺自身に一番残っているのは、そこじゃない。
「ありがとう」と、直接言われたこと。
外から一人で来た人が、俺を頼ってくれた。
そして俺は、その人の願いを叶えることができた。
立てた仮説の通りに、人がつながっていく。
その途中が、たまらなく面白かった。
──取引は、その道中のあとに、ついてきただけだった。
回り道は、遠回りじゃなかった
今思えば、あれは回り道だった。
商品の話を、すぐにはしていない。
相手の困りごとを先に見て、そこに手を貸した。
急がば回れ、という言葉がある。
営業でも、本当にそうだと思う。
相手を知り、相手にも知ってもらう。
そうして距離が縮まると、
やっと商品の話を聞いてもらえる。
使ってもらわなければ、良さは分からない。
率直な声も、聞けない。
だから、その入口に立つための回り道は、
遠回りじゃなかった。
一番近い道だった。
──狙いを立てて、途中を楽しむ。それが、俺の営業の形になった。
明日、ひとつだけ
商品とは関係のない場面でも、
顧客の困りごとを考えてみる。
雑談の中の一言。
ふとこぼれた愚痴。
商談が終わった後の、何気ない表情。
そこに、相手が本当に困っていることが
隠れていることがある。
当たっていなくてもいい。
仮説は、外れたら立て直せばいい。
一つ考えてみるだけで、
次に会う時の見え方が変わる。
──今夜もまた、明日会う人の困りごとを一つ思い浮かべてから、読書灯を落とす。
まとめ:道中を楽しむということ
商品の良さだけを話していた頃は、
相手のことが見えていなかった。
相手の困りごとに仮説を立てて、動く。
狙い通りに人がつながっていく。
その途中が、一番面白い。
取引は、そのあとに、ついてくる。
同じ夜を戦う、戦友へ
📖 結果ばかりを追って、少し疲れている人へ
『HUNTER×HUNTER』冨樫義博
父を探してハンターになった少年が、仲間とともに広い世界を旅していく物語だ。
このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。
同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。
──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。


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