自分が勝たなくていい──『スラムダンク』に教わった、相手に届く伝え方の選び方

深夜の机に置かれた読書灯と単行本と薄く長く桂剥きにした大根 熱の処方箋

得意先から、問い合わせが入った。

次に訪問できるのは、一週間後だった。

会って話す方が、伝わる。
そう思って、訪問の日まで答えを持っていくつもりだった。

でも、その一週間、相手は何も分からないまま待つことになる。

一週間後の訪問より、今日の電話

直接会って話すのは、大事だと思っている。

表情が見える。
声の調子で、どこに引っかかっているかも分かる。
資料を指さしながら、多くを伝えられる。

だから昔の俺は、大事な話ほど、会って伝えようとしていた。

ただ、会うまでの時間を、相手がどう過ごすかは考えていなかった。

問い合わせをした側は、答えが来るまで落ち着かない。
状況が分からないまま、不安だけが膨らむ。

ある時から、訪問の前に電話をかけるようにした。
電話がつながらなければ、メールでもいい。

まず、答えを一つ出す。
答えが出ないなら、今どういう状況かだけでも伝える。

それだけで、相手に安心してもらえた。

詳しい話は、会ったときにすればいい。
先に届けるべきは、安心だった。

──届け方を選ぶという考えは、もう一つの場面でも役に立った。

自分より、話が届く人がいる

得意先によっては、俺の話がなかなか届かないことがあった。

話の中身が、間違っているわけじゃない。
ただ、相手が聞く耳を持ってくれない。

人によっては、肩書きのある人や、専門性の高い人の話なら聞く。
それは、仕方のないことだと思う。

ある得意先に、上司に一緒に来てもらった。

上司から挨拶をしてもらい、説明もしてもらった。
それだけで、相手の聞き方が変わった。

突破口が開いてからは、次の面会も、その先の商談も、自分で進められた。

自分一人で何度も通って、少しずつ信頼を積み上げる。
そのやり方もあったと思う。
でも、上司の力を借りた方が、早く、確かに、話が前に進んだ。

正直に言えば、最初は少し悔しかった。
自分の力で開けたかった扉だった。

──そのとき、ある漫画の場面を思い出した。

お前は鰈だ

『スラムダンク』の山王戦。
湘北の主将・赤木は、ゴール下で相手の河田に押され続ける。

そこへ、かつてのライバルだった魚住が現れる。
華麗な技を持つ河田は、鯛だ。
そして、赤木にこう言う。

「お前は鰈だ。泥にまみれろよ」

赤木はそこで気づく。
自分が河田に勝てなくてもいい。チームが勝てばいい。
そんな意味のことだ。

そこから赤木は、リバウンドや体を張った守りに徹していく。
目立たない仕事で、チームを勝たせにいく。

俺が悔しかったのは、自分が河田に勝ちたかったからだ。
自分の足で行って、自分の言葉で伝えて、自分の手柄にしたかった。

でも、勝ち負けが決まるのは、そこじゃなかった。

──得意先にとっての「勝ち」は、何だったのか。

主役は、届くことだ

得意先が欲しかったのは、俺の訪問じゃない。
必要な情報が、必要なときに、納得できる形で届くことだった。

だとしたら、届け方は選んでいい。

早く知りたい人には、電話かメールで先に伝える。
肩書きのある人の話を聞きたい人には、上司に来てもらう。
専門的な話を聞きたい人には、専門の担当者を連れていく。

以前、商品ではなく、自分を売るという話を書いた。
自分が前に出ないことは、それと矛盾しないと思っている。

相手に一番届く方法を選べること。
それも、信頼される営業の形の一つだ。

──泥にまみれるのは、負けることじゃない。

明日、ひとつだけ

次に誰かへ何かを伝えるとき、一度だけ考える。
「相手は、どの形で受け取りたいか」

会って話すのか。
先に電話を一本入れるのか。
自分より話が届く人に頼むのか。

自分が動くことを、目的にしない。
相手に届くことを、目的にする。

伝え方は、自分の得意で選ぶものじゃない。
相手の受け取り方で選ぶものだ。
と、俺は思っている。

──今夜もまた、明日かける電話を一本決めてから、読書灯を点ける。

同じ夜を戦う、戦友へ

📖 自分が主役じゃなくていい、と思えた人へ
『SLAM DUNK』井上雄彦

バスケットボールに打ち込む高校生たちの物語だ。
目立つプレーの裏で、体を張り続ける選手たちの姿も描かれている。

このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。

同じ夜を過ごす戦友がいるなら、Xでも繋がりたい。

@shinyadokushoto

──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。

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