「うちの商品じゃないほうがいい」と言えた日──『正直不動産』に教わった、正直が信頼に変わる理由

深夜の机に置かれた読書灯と単行本と、古い真鍮の鍵 静の処方箋

「今回は、うちの商品じゃないほうがいいと思います」

得意先で、そう言ったことがある。

営業としては、言うべきじゃない言葉かもしれない。
それでも、言った。

全員に合う商品は、ない

俺が扱っている商品は、得意先の先にいる人の暮らしを、大きく左右するものだ。

いい商品だと思っている。
自信を持って勧められる場面も、たくさんある。

ただ、全員に合うわけじゃない。

人によっては、思うような効果が出にくい。
人によっては、負担のほうが大きくなる。

その人の状況によっては、
効果は控えめでも負担の少ない、他社の商品のほうが合うこともある。
逆に、負担が大きくても、もっと強い他社の商品が必要なこともある。

──それが分かっていても、営業としては、使ってほしいのが本音だ。

営業の本音と、その先にいる人

多少のリスクがあっても、使ってもらえれば営業成績が上がる。

正直に言えば、そう思う瞬間はある。

でも、俺が扱っているのは、その人の暮らしを左右するものだ。

その先にいる一人にとって、本当にいい選択は何か。
そう考えると、答えは決まってくる。

合わないと分かっているなら、合わないと伝える。
他社の商品のほうがいいなら、そう伝える。

以前、相手の先にいる人まで見る、という話を書いた。
今回は、その先にいる人のために、自分の商品を引っ込める話だ。

──そんな俺の背中を、ある漫画が押してくれた。

嘘がつけない営業マン

『正直不動産』は、嘘をつけなくなった不動産営業マンの物語だ。

口八丁で契約を取ってきた主人公の永瀬は、ある日を境に、思ったことを正直に話してしまうようになる。
都合の悪いことも、隠せない。

最初は、それで契約を逃す。
でも、正直に話すうちに、お客さんからの信頼が少しずつ積み上がっていく。

嘘をつかないことが、遠回りに見えて、一番の近道になる。

──俺の商談でも、同じことが起きていた。

商品ではなく、自分を売る

俺には、営業として大事にしている心得がある。

商品を売り込むのではなく、商品を通して、自分を売り込むこと。

得意先に評価してほしいのは、商品だけじゃない。
この人の言うことなら信じられる、と思ってもらえる、俺という人間そのものだ。

だから、合うときは勧める。
合わないときは、勧めない。
他社の商品のほうが合うなら、そちらを提案する。

自社の商品を勧めなかった商談は、その場では何も生まない。
営業成績にもならない。
むしろ、他社の商品が使われることになる。

でも、そういうことを何度か重ねるうちに、得意先の反応が変わっていった。

この人は、自社の商品しか勧めない人じゃない。
本当に合うかどうかで、話してくれる人だ。

そう思ってもらえるようになった。

すると、本当にうちの商品が合う人の話をするとき、
得意先は、まっすぐに聞いてくれるようになった。

正直に「合わない」と言えるから、「合う」という言葉が信じてもらえる。

商品は、選ばれたり、選ばれなかったりする。
でも、信頼は、俺という人に積み上がっていく。

──売らない提案が、次の信頼をつくっていた。

明日、ひとつだけ

次の提案で、自分の商品が合わない場面を、ひとつだけ考えておく。

そして、もしその場面に出会ったら、正直にそう伝える。

その場の営業成績は、逃すかもしれない。
でも、信頼は、逃さない。

正直は、損じゃない。
時間をかけて返ってくる、一番確かな投資だ。
と、俺は思っている。

──今夜もまた、明日会う人の、その先にいる誰かを思い浮かべてから、読書灯を消す。

同じ夜を戦う、戦友へ

📖 正直に働くことの意味を、考えたい人へ
『正直不動産』大谷アキラ・夏原武

嘘がつけなくなった不動産営業マンが、正直さと向き合いながら成長していく物語だ。
業界の裏側が描かれる一方で、正直であることが信頼に変わっていく過程に、何度も背中を押される。

このブログ「深夜の読書灯」では、
懸命に生きる父・事業主・サラリーマンが、漫画から学んだ「仕事術」や「生き方」を発信している。

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@shinyadokushoto

──今夜もまた、どこかで一つ、読書灯が灯る。

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